日野之彦「Scenery as is」
会期:2013 年 9 月 20 日(金) - 10 月 6 日(日) 12:00 - 20:00
*9 月 24 日(火)・30 日(月) 休廊
オープニングレセプション:9 月 20 日(金) 18:00 - 20:00
会場:SNOW Contemporary (XYZ collective) / 東京都世田谷区弦巻 2-30-20 1F
SNOW Contemporaryでは2013年9月20日(金)から10月6日(日)まで、日野之彦の個展「Scenery as is」を開催いたします。 うつろに見開いた大きな瞳、半開きの口、幼児的なポーズ、白いブリーフを着ただけの裸体..。日野之彦が描く狂気にも近い人物像は、2005年度のVOCA賞受賞を機に多くの人が知るところとなりました。日野のこれまでにない人物表現は、ひきこもりやニートという現象が取沙汰されるようになった当時の不安定な世相と相まって、驚きや戸惑いと同時に共感をもって迎えられました。
日野自身はしかし、ショックを与える効果を狙ってそういった人物像を描いたわけではないと明言しています。「私は人間の精神という形のないものを視覚化するために、肉体と意識をあえて別々に分けて描いている。例えば顔を描く時にはポーズとは関係なく、感情が表れないような表情を選んでいる。焦点の合わない見開いた目は感情を消すためである。また、描かれた人体から何か特定の意味や意思が表れないようにするために、ポーズや服装などから伝わるあらゆる情報を消したり弱めたり、あるいは変えたりずらしたりしている」(「日野之彦 | Korehiko Hino」(2011)より抜粋)。観る者によっては衝撃的に思える日野の人物像ですが、人物を特定づける表情や服装などのアイデンティティを排除することで人間の精神そのものを描こうと試みた日野にとっては、自然な表現方法であるのかもしれません。
2011年3月に上野の森美術館ギャラリーで発表した個展「そこにあるもの」では、すでに知られているモチーフである人物像だけではなく動物の死体やカツラなどの静物画にも挑んでいます。生きていないモノに対し、生きていることを暗示させるヒントを加えて描くことで、単なるモノに息づきが感じられる存在感を生み出し、人物画とは真逆のアプローチをもって、人物画と同質の不安定な世界観を創出しました。日野は見えている表層ではなく、見えない、しかし確かに感じられ存在する精神のありかを、人物画と静物画、双方のアプローチから提示してみせたのです。
この度の個展は「Scenery as is」(ありのままの風景)と題し、ドローイングや人物画、風景画の大作など、新作を含め約6点を発表いたします。ペインターとして確かな技術と明確なヴィジョンを兼ね備えた日野の新たな挑戦を是非ご高覧いただき、日野之彦の世界観を通じて現在の風景を体感していただくことで、今の社会を再認識する一端となれば幸いです。
ありのままの風景 - アーティスト・ステートメント
私の表現は、絵画における写実的な描写と寓意的な手法を用いて、独自のイメージを作り出すことを目的としています。
写実表現は、対象物のありのままの姿を描き出したいという衝動から生まれます。私にとってそれは、物を取りまくあらゆる要素がなくなり、物自体がさらけ出された状態だと考えます。ありのままの状態にするために、物の形を克明に描写しながら、その一方で形以外のあらゆる要素を消していきます。具体的には、意識や感情、音、熱、匂いといった要素すべてが画面から消えてなくなるように構造を操作します。例えて言えば、物の周りを覆っている膜を剥ぎ取って中身を剥き出しにし、さらにその奥に感じる霊的な存在を抜き取って空っぽにするような感覚です。こうして描くと、対象物自体がさらけ出されると同時に、目に見えない霊的な気配が浮かび上がってきます。
写実表現が対象物そのものを表すのに対して、寓意表現は対象物の形を借りて何かの意味を表します。私は物をとりまくあらゆる要素を消し、物そのものを抽出する手段の一つとして、寓意的な手法を使います。まずモチーフの選択や状況設定の段階で、それらが表す意味を操作して、特定の物語を想起させない状態をつくります。そうすることによって、対象物が物語から解放され、ただ物がそこに存在するという状態が生まれます。あるいは、存在しないという意味を連想させるモチーフや状況を描くことによって、何も存在しないということ自体を暗示的に示します。その結果、形が見えているのに何も存在していないように感じる状態が生まれます。そうすることで形以外の要素が消えてなくなり、対象のありのままの状態が抽出されます。
このように私は、写実描写と寓意表現を用いることにより、描く対象のあらわな姿を生々しくさらけ出します。そして同時に、目に見えない物の存在を意識するきっかけをつくり出します。この行為を通じて、私は現実世界の有り様をありのままに捉えることができるのだと考えています。
日野之彦
会期:2013 年 9 月 20 日(金) - 10 月 6 日(日) 12:00 - 20:00
*9 月 24 日(火)・30 日(月) 休廊
オープニングレセプション:9 月 20 日(金) 18:00 - 20:00
会場:SNOW Contemporary (XYZ collective) / 東京都世田谷区弦巻 2-30-20 1F
SNOW Contemporaryでは2013年9月20日(金)から10月6日(日)まで、日野之彦の個展「Scenery as is」を開催いたします。 うつろに見開いた大きな瞳、半開きの口、幼児的なポーズ、白いブリーフを着ただけの裸体..。日野之彦が描く狂気にも近い人物像は、2005年度のVOCA賞受賞を機に多くの人が知るところとなりました。日野のこれまでにない人物表現は、ひきこもりやニートという現象が取沙汰されるようになった当時の不安定な世相と相まって、驚きや戸惑いと同時に共感をもって迎えられました。
日野自身はしかし、ショックを与える効果を狙ってそういった人物像を描いたわけではないと明言しています。「私は人間の精神という形のないものを視覚化するために、肉体と意識をあえて別々に分けて描いている。例えば顔を描く時にはポーズとは関係なく、感情が表れないような表情を選んでいる。焦点の合わない見開いた目は感情を消すためである。また、描かれた人体から何か特定の意味や意思が表れないようにするために、ポーズや服装などから伝わるあらゆる情報を消したり弱めたり、あるいは変えたりずらしたりしている」(「日野之彦 | Korehiko Hino」(2011)より抜粋)。観る者によっては衝撃的に思える日野の人物像ですが、人物を特定づける表情や服装などのアイデンティティを排除することで人間の精神そのものを描こうと試みた日野にとっては、自然な表現方法であるのかもしれません。
2011年3月に上野の森美術館ギャラリーで発表した個展「そこにあるもの」では、すでに知られているモチーフである人物像だけではなく動物の死体やカツラなどの静物画にも挑んでいます。生きていないモノに対し、生きていることを暗示させるヒントを加えて描くことで、単なるモノに息づきが感じられる存在感を生み出し、人物画とは真逆のアプローチをもって、人物画と同質の不安定な世界観を創出しました。日野は見えている表層ではなく、見えない、しかし確かに感じられ存在する精神のありかを、人物画と静物画、双方のアプローチから提示してみせたのです。
この度の個展は「Scenery as is」(ありのままの風景)と題し、ドローイングや人物画、風景画の大作など、新作を含め約6点を発表いたします。ペインターとして確かな技術と明確なヴィジョンを兼ね備えた日野の新たな挑戦を是非ご高覧いただき、日野之彦の世界観を通じて現在の風景を体感していただくことで、今の社会を再認識する一端となれば幸いです。
ありのままの風景 - アーティスト・ステートメント
私の表現は、絵画における写実的な描写と寓意的な手法を用いて、独自のイメージを作り出すことを目的としています。
写実表現は、対象物のありのままの姿を描き出したいという衝動から生まれます。私にとってそれは、物を取りまくあらゆる要素がなくなり、物自体がさらけ出された状態だと考えます。ありのままの状態にするために、物の形を克明に描写しながら、その一方で形以外のあらゆる要素を消していきます。具体的には、意識や感情、音、熱、匂いといった要素すべてが画面から消えてなくなるように構造を操作します。例えて言えば、物の周りを覆っている膜を剥ぎ取って中身を剥き出しにし、さらにその奥に感じる霊的な存在を抜き取って空っぽにするような感覚です。こうして描くと、対象物自体がさらけ出されると同時に、目に見えない霊的な気配が浮かび上がってきます。
写実表現が対象物そのものを表すのに対して、寓意表現は対象物の形を借りて何かの意味を表します。私は物をとりまくあらゆる要素を消し、物そのものを抽出する手段の一つとして、寓意的な手法を使います。まずモチーフの選択や状況設定の段階で、それらが表す意味を操作して、特定の物語を想起させない状態をつくります。そうすることによって、対象物が物語から解放され、ただ物がそこに存在するという状態が生まれます。あるいは、存在しないという意味を連想させるモチーフや状況を描くことによって、何も存在しないということ自体を暗示的に示します。その結果、形が見えているのに何も存在していないように感じる状態が生まれます。そうすることで形以外の要素が消えてなくなり、対象のありのままの状態が抽出されます。
このように私は、写実描写と寓意表現を用いることにより、描く対象のあらわな姿を生々しくさらけ出します。そして同時に、目に見えない物の存在を意識するきっかけをつくり出します。この行為を通じて、私は現実世界の有り様をありのままに捉えることができるのだと考えています。
日野之彦
2020©SNOW Contemporary, All Right Reserved.